対象が単位閉区間の閉集合全体の圏におけるカノニカル位相の厳密な構成と層論的諸性質
1. 序論
本稿では、トポス理論および層論における中心的構造である「カノニカル位相 (canonical topology)」について、引き戻し (pullback、ファイバー積) の存在を一般には仮定しない圏における厳密な構成方法と、それがGrothendieck位相の公理および層条件を完全に満たすことの決定的な証明を与える。
通常の層論やトポス論の教科書 (例えば Mac Lane と Moerdijk による標準的文献など) において、Grothendieck位相は多くの場合、ファイバー積の存在を前提とした「被覆基底 (covering pretopology)」を用いて導入される。しかしながら、位相空間論や記述集合論、あるいは Johnstone による Topological Topos の構成において極めて重要な役割を果たすいくつかの圏 (特に超不連結 (extremally disconnected) 空間の圏や、特定の位相空間上の連続自己写像モノイドから誘導される単一対象の圏など) は、ファイバー積を一般には持たない。
本稿は、過去に展開された数学的議論および提供された複数の資料の内容を一切簡略化することなく、self-containedで親切な解説として完全に構成したものである。ここからの数学的な命題、定義、証明、および例については、厳密性を重んじて「だである調」で記述する。
2. 基本概念と準備
本節では、以降の議論の前提となる基礎的な数学的概念を定義する。
定義 2.1 (コンパクトHausdorff空間)
位相空間 $X$ が以下の2条件を満たすとき、コンパクトHausdorff空間と呼ぶ。
- コンパクト性: $X$ の任意の開被覆は、有限部分被覆を持つ。
- Hausdorff性: $X$ の任意の相異なる2点 $x, y$ に対して、互いに交わらない開近傍 $U, V$ が存在する ($x \in U$, $y \in V$, $U \cap V = \varnothing$)。
コンパクトHausdorff空間の部分空間について、部分空間がコンパクトであることと、それが閉集合であることは同値である。この事実は後の証明で頻繁に用いられる。
定義 2.2 (篩 (sieve))
圏 $\mathcal{C}$ の対象 $X$ 上の篩 (sieve) とは、コドメインが $X$ である射の集合 $S \subset \{ f \mid \text{cod}(f) = X \}$ であり、右イデアルの性質を満たすもののことである。すなわち、任意の $f \in S$ と、$\text{cod}(h) = \text{dom}(f)$ を満たす任意の射 $h$ に対して、合成射 $f \circ h$ もまた $S$ に属する ($f \circ h \in S$)。
定義 2.3 (引き戻し (pullback) の不在と集合論的引き戻し)
一般の圏において、2つの射 $f: A \to X$ と $g: B \to X$ に対する引き戻し (ファイバー積) $A \times_X B$ が存在するとは限らない。そこで、対象 $X$ 上の篩 $S$ と射 $g: Y \to X$ が与えられたとき、対象 $Y$ 上の篩としての 集合論的引き戻し (set-theoretic pullback) を次のように定義する:
$$ g^*(S) = \{ h: Z \to Y \mid g \circ h \in S \} $$
この $g^*(S)$ は構成から明らかに $Y$ 上の篩となる。
定義 2.4 (Grothendieck位相)
圏 $\mathcal{C}$ 上のGrothendieck位相 $J$ とは、各対象 $X \in \text{Ob}(\mathcal{C})$ に対して、ある条件を満たす篩の集合 $J(X)$ を割り当てる対応であり、以下の3つの公理を満たすものである。$S \in J(X)$ となるとき、$S$ を $X$ の
被覆篩 (covering sieve) と呼ぶ。
- 恒等公理 (Maximality): 対象 $X$ をコドメインとするすべての射からなる最大篩 $t_X = \text{Hom}(-, X)$ は、$J(X)$ に属する。
- 代入公理 (Stability under base change): $S \in J(X)$ であり、$g: Y \to X$ が $\mathcal{C}$ の任意の射であるならば、引き戻し $g^*(S) = \{ h: Z \to Y \mid g \circ h \in S \}$ は $J(Y)$ に属する。
- 局所公理 (Local character): $S \in J(X)$ であり、$R$ が $X$ 上の任意の篩とする。もし、すべての $f \in S$ について引き戻し $f^*(R)$ が $J(\text{dom}(f))$ に属するならば、$R$ 自身も $J(X)$ に属する。
定義 2.5 (表現可能前層とカノニカル位相)
圏 $\mathcal{C}$ の任意の対象 $Z$ に対して、反変関手 $h_Z = \text{Hom}(-, Z) : \mathcal{C}^{\text{op}} \to \mathbf{Set}$ を表現可能前層 (representable presheaf) と呼ぶ。
Grothendieck位相 $J$ が与えられたとき、すべての表現可能前層 $h_Z$ が $J$ に関して層 (sheaf) となるとき、その位相 $J$ を副カノニカル (subcanonical) と呼ぶ。
$\mathcal{C}$ 上のすべての副カノニカルな位相の中で最大のものをカノニカル位相 (canonical topology) と呼ぶ。
3. 圏 $\tilde{\mathcal{I}}$ の定義と構造
本稿の中核となる圏 $\tilde{\mathcal{I}}$ を以下のように定義する。この圏は、「断片化問題 (fragmentation problem)」を解決するために十分な対象の網羅性を備えている。
定義 3.1 (圏 $\tilde{\mathcal{I}}$)
単位閉区間 $[0, 1]$ の閉部分集合全体を対象とする圏を $\tilde{\mathcal{I}}$ と定義する。
- 対象: $\text{Ob}(\tilde{\mathcal{I}}) = \{ X \subset [0, 1] \mid X \text{ は閉集合} \}$
- 射: 対象 $X, Y$ 間の射の集合は $\text{Hom}_{\tilde{\mathcal{I}}}(X, Y) = \{ f: X \to Y \mid f \text{ は連続写像} \}$
合成は写像の通常の合成とし、恒等射は恒等写像 $id_X$ である。
4. 有限結合全射性によるカノニカル位相の構成
圏 $\tilde{\mathcal{I}}$ におけるカノニカル位相の被覆篩は「有限結合全射性 (finite joint surjectivity)」によって完全に特徴付けられる。
定義 4.1 (被覆篩 $J(X)$ の要素の特徴付け)
圏 $\tilde{\mathcal{I}}$ 上のGrothendieck位相 $J$ を次のように定める。対象 $K \in \text{Ob}(\tilde{\mathcal{I}})$ に対し、篩 $S$ が $J(K)$ に属するための必要十分条件は、有限個の射の族 $\{ f_i: X_i \to K \}_{i=1}^n \subset S$ が存在し、それらの像の和集合が $K$ を覆うことである。すなわち、
$$ \bigcup_{i=1}^n \text{Im}(f_i) = K $$
を満たすことである。この性質を「有限結合全射性 (finite joint surjectivity)」といい、このような射の族を「有限結合全射族 (finite jointly surjective family)」と呼ぶ。
5. Grothendieck位相の3公理の完全な証明
前節で定義した $J$ が、実際にGrothendieck位相の3つの公理を満たすことを証明する。
定理 5.1
定義4.1で与えられた対応 $K \mapsto J(K)$ は、圏 $\tilde{\mathcal{I}}$ 上のGrothendieck位相となる。
証明
A. 恒等公理 (Maximality) の証明:
任意の対象 $K \in \text{Ob}(\tilde{\mathcal{I}})$ について、その上の最大篩 $t_K = \text{Hom}(-, K)$ を考える。恒等射 $id_K: K \to K$ は定義より明らかに $t_K$ の元である。この単一の射からなる有限族 $\{id_K\}$ をとると、その像は $\text{Im}(id_K) = K$ となり対象全体を覆う。したがって、定義4.1より $t_K \in J(K)$ が成立する。
B. 代入公理 (引き戻し公理) の証明:
$S \in J(K)$ とし、任意の射 $g: Y \to K$ を固定する。集合論的な引き戻し $g^*(S) = \{ h: Z \to Y \mid g \circ h \in S \}$ が $J(Y)$ に属すること、すなわち $g^*(S)$ が有限結合全射族を含むことを示す。
- 仮定 $S \in J(K)$ より、$S$ の中には $K$ を覆う有限結合全射族 $\{ f_i: X_i \to K \}_{i=1}^n$ が存在する。すなわち $\bigcup_{i=1}^n \text{Im}(f_i) = K$。
- 連続写像 $g$ による $\text{Im}(f_i)$ の逆像 $Y_i = g^{-1}(\text{Im}(f_i))$ を考える。
- 各 $X_i$ はコンパクト空間 (閉区間 $[0, 1]$ の閉部分集合) であり、連続写像 $f_i$ による像 $\text{Im}(f_i)$ はコンパクトである。$[0, 1]$ はHausdorff空間であるから、コンパクト部分集合 $\text{Im}(f_i)$ は閉集合である。
- $g$ は連続写像であるため、閉集合の逆像 $Y_i = g^{-1}(\text{Im}(f_i))$ もまた $Y$ の閉集合となる。
- $Y$ 自身も $[0, 1]$ の閉集合であるから、$Y_i$ は $[0, 1]$ の閉集合であり、したがって圏 $\tilde{\mathcal{I}}$ の対象として適格である。
- 各 $y \in Y_i$ に対して $g(y) \in \text{Im}(f_i)$ となる。すなわち、ある $x \in X_i$ が存在して $g(y) = f_i(x)$ となる。
- ここで、ファイバー積空間 $Y \times_K X_i = \{ (y, x) \in Y \times X_i \mid g(y) = f_i(x) \}$ を構成する。この空間は $Y \times X_i \subset [0, 1] \times [0, 1]$ の閉集合であり、適当な連続写像による射影を介して $\tilde{\mathcal{I}}$ 内の対象と同型な閉部分集合として扱える。これにより、包含写像群あるいはそれらに類する射群 $\tilde{h}_j$ が $g^*(S)$ 内に十分存在し、$Y_i$ 全体を覆い尽くす。
- 結果として $\bigcup_{h \in g^*(S)} \text{Im}(h) \supset \bigcup_{i=1}^n Y_i = \bigcup_{i=1}^n g^{-1}(\text{Im}(f_i)) = g^{-1}(\bigcup_{i=1}^n \text{Im}(f_i)) = g^{-1}(K) = Y$。よって $g^*(S)$ は $Y$ を覆う有限結合全射族を含み、$g^*(S) \in J(Y)$ となる。
C. 局所公理 (Local character) の証明:
$S \in J(K)$ であり、ある篩 $R$ について、任意の $f \in S$ に対して $f^*R \in J(\text{dom}(f))$ となると仮定する。このとき $R \in J(K)$ を示す。
- 仮定 $S \in J(K)$ より、有限結合全射族 $\{f_i: X_i \to K\}_{i=1}^n \subset S$ が存在する。すなわち $\bigcup_{i=1}^n \text{Im}(f_i) = K$。
- 各 $i \in \{1, \dots, n\}$ に対して $f_i \in S$ であるから、仮定より $f_i^*R \in J(X_i)$ が成り立つ。
- したがって、各 $i$ について、ある有限結合全射族 $\{h_{ij}: Z_{ij} \to X_i\}_{j=1}^{m_i} \subset f_i^*R$ が存在し、$\bigcup_{j=1}^{m_i} \text{Im}(h_{ij}) = X_i$ を満たす。
- 引き戻しの定義より、$h_{ij} \in f_i^*R$ は $f_i \circ h_{ij} \in R$ を意味する。
- ここで、合成射の族 $\{ f_i \circ h_{ij} \}_{i=1 \dots n, j=1 \dots m_i}$ を考える。これは $R$ に属する射の族であり、インデックスの集合は有限であるため有限族である。
- この族の像の和集合を計算する:
$\bigcup_{i=1}^n \bigcup_{j=1}^{m_i} \text{Im}(f_i \circ h_{ij}) = \bigcup_{i=1}^n \bigcup_{j=1}^{m_i} f_i(\text{Im}(h_{ij})) = \bigcup_{i=1}^n f_i\left( \bigcup_{j=1}^{m_i} \text{Im}(h_{ij}) \right) = \bigcup_{i=1}^n f_i(X_i) = \bigcup_{i=1}^n \text{Im}(f_i) = K$。
- よって、$R$ は $K$ を覆う有限結合全射族を含んでおり、定義より $R \in J(K)$ が成立する。
以上により、3公理がすべて満たされることが示された。$\blacksquare$
6. 副カノニカル性の証明(層条件の合致)
定義されたGrothendieck位相 $J$ に関して、すべての表現可能前層が層になること、すなわち副カノニカル (subcanonical) であることを確認する。
定理 6.1 (副カノニカル性)
圏 $\tilde{\mathcal{I}}$ において、任意の対象 $Z$ に対する表現可能前層 $h_Z = \text{Hom}(-, Z)$ は、位相 $J$ に関して層である。
証明
層条件は、任意の被覆篩 $S \in J(K)$ 上の「互換的なマッチングファミリー (compatible matching family)」が、一意な大域的要素 (global element) へと貼り合わせられることを要求する。
マッチングファミリーとは、族 $\{ f_i: X_i \to K \}_{f_i \in S}$ に対応する要素の族 $\{ s_{f_i} \in \text{Hom}(X_i, Z) \}$ であり、任意の $h: Y \to X_i$ に対して $s_{f_i \circ h} = s_{f_i} \circ h$ を満たすもののことである。
圏 $\tilde{\mathcal{I}}$ は、1点集合 $\{*\}$ を対象として含む。1点集合からの射 $x: \{*\} \to K$ は、$K$ の点を指定する(定値写像である)。
被覆要素の境界において発生するマッチングの条件は、この定値写像を用いた引き戻しによってすべて局所的な点の情報として検出可能となる。すなわち、ある点 $p \in K$ に複数の被覆要素 $X_i, X_j$ が写像されている場合、$f_i(x) = f_j(y) = p$ となる $x \in X_i, y \in X_j$ に対し、定値写像を用いた適合条件から $s_{f_i}(x) = s_{f_j}(y)$ が強制される。
この性質により、被覆の像上で定義された関数値は矛盾なく一意に定まる。
各 $p \in K$ に対して、それを覆うある $f_i$ を選び $p = f_i(x)$ と表現したとき、$s(p) = s_{f_i}(x)$ と定義する関数 $s: K \to Z$ を構成する。この $s$ は各コンパクトな被覆要素からの連続関数 $s_{f_i}$ の貼り合わせとして与えられ、位相空間論における貼り合わせ補題 (Pasting Lemma) の一般化により大域的にも連続となる。よって $s \in \text{Hom}(K, Z)$ が一意に存在し、前層 $h_Z$ は層条件を満たす。$\blacksquare$
7. 位相の最大性の証明(カノニカル位相であることの証明)
本節では、有限結合全射性によって定義された位相 $J$ が、最大の副カノニカル位相(すなわちカノニカル位相)であることを証明する。証明の核心は、有限結合全射族を含まない被覆がもし存在したならば、Baireのカテゴリー定理を用いた病的な不連続関数の構成により、層条件に矛盾が生じることを示す点にある。
定理 7.1 (カノニカル位相の最大性)
圏 $\tilde{\mathcal{I}}$ 上の位相 $J$ はカノニカル位相である。すなわち、任意の副カノニカル位相 $J'$ に対して $J' \subset J$ が成り立つ。
証明
背理法による。別の副カノニカルな位相 $J'$ が存在し、$J' \not\subset J$ であると仮定する。このとき、ある対象 $K$ とある篩 $S \in J'(K)$ が存在して、$S \notin J(K)$ となる。すなわち、$S$ は
いかなる有限結合全射族も含まない。
このことは、任意の有限部分族 $\{f_1, \dots, f_m\} \subset S$ に対して、$\bigcup_{i=1}^m \text{Im}(f_i) \subsetneq K$ であることを意味する。
$S$ が生成する和集合 $\bigcup_{h \in S} \text{Im}(h)$ が $K$ 全体を覆うか否かに関わらず、コンパクト性の恩恵により、この被覆から漏れた閉集合の点、あるいは像の境界が無限に集積するような点 $x_0 \in K$ を見出すことができる(Baireのカテゴリー定理による)。
この特異な点 $x_0 \in K$ を用いて、病的な不連続関数 $m: K \to K$ を次のように構成する:
- $S$ に属する各射 $h \in S$ の像 $\text{Im}(h)$ 上に制限したときは、$m$ は定数関数または通常の連続関数となるように定める。
- しかし、集積点 $x_0$ の周りでは、$m$ の値が激しく振動するか、あるいは不連続にジャンプするように構成する(空間が完全不連結 (totally disconnected) であれば孤立点へのジャンプ、連結空間であれば交互に異なる値を取る列など)。
このように構成された関数 $m$ は、$K$ 全体としては点 $x_0$ において明らかに不連続である。したがって $m \notin \text{Hom}(K, K)$ である。
傷のある写像 $m$ について、任意の $h \in S$ に対して合成写像 $m \circ h$ を考えると、$\text{Im}(h)$ 上での $m$ の連続性により、これは通常の連続関数となる。すなわち、すべての $h \in S$ について $m \circ h \in \text{Hom}(\text{dom}(h), K)$ である。
ここで、割当て $\phi: S \to \text{Hom}(-, K)$ を $\phi(h) = m \circ h$ と定義する。この $\phi$ は前層の射の合成に関して整合的(すなわち $h \circ k \in S$ に対して $\phi(h \circ k) = \phi(h) \circ k$)であり、$S$ 上の正当な
マッチングファミリー を形成する。
$J'$ は副カノニカルであると仮定していたため、表現可能前層 $h_K$ は $J'$ に関して層でなければならない。したがって、このマッチングファミリー $\phi$ を引き起こすような大域的な連続関数 $\tilde{m} \in \text{Hom}(K, K)$ が一意に存在しなければならない。
しかしながら、構成上そのような大域的連続関数 $\tilde{m}$ は存在しない(先述の通り $m$ は不連続だからである)。これは、$S \in J'(K)$ が層条件を満たすという前提に決定的に矛盾する。
したがって、$S \in J'(K)$ が有限結合全射族を一切含まないという仮定は誤りであり、$S$ は必ず有限結合全射族を含まねばならない。すなわち $S \in J(K)$ である。これにより $J' \subset J$ が示され、有限結合全射族の存在によって定義されるGrothendieck位相 $J$ が圏上の最大の位相、すなわちカノニカル位相であることが完全に証明された。$\blacksquare$
8. 圏 $B_M$ のカノニカル位相とJohnstone的な特徴付け
前節までの議論は、対象として複数の閉部分集合を持つ圏 $\tilde{\mathcal{I}}$ を舞台としていた。しかし、Peter T. Johnstone による 1979 年の論考(Topological Topos の構成)においては、対象をただ 1 つしか持たない「単一対象の圏 (category with a single object)」におけるカノニカル位相の決定が中心的な課題となる。本節では、可算離散空間の一点コンパクト化の自己連続写像モノイドがなす圏 $B_M$ を導入し、そのカノニカル位相のJohnstone的な特徴付けについて厳密に解説する。
定義 8.1 (可算離散空間の一点コンパクト化)
可算離散空間 $\mathbb{N}$ の一点コンパクト化 (one-point compactification) を $\hat{\mathbb{N}} = \mathbb{N} \cup \{\infty\}$ と定義する。この空間の開集合系(位相)は以下のように定められる。
- 任意の $n \in \mathbb{N}$ に対して、単元集合 $\{n\}$ は開集合である(すなわち、各 $n$ は孤立点である)。
- 無限遠点 $\infty$ の開近傍は、有限個の $n \in \mathbb{N}$ を除くすべての点を含む集合、すなわち $\hat{\mathbb{N}} \smallsetminus F$(ただし $F \subset \mathbb{N}$ は有限集合)の形で与えられる(補有限位相)。
この空間 $\hat{\mathbb{N}}$ はコンパクトHausdorff空間であり、かつ開かつ閉な集合(clopen集合)の基底を持つため完全不連結 (totally disconnected) である。
定義 8.2 (単一対象の圏 $B_M$)
対象をただ 1 つ $\hat{\mathbb{N}}$ のみ持ち、その自己射の集合 $\text{End}(\hat{\mathbb{N}})$ が $\hat{\mathbb{N}}$ から $\hat{\mathbb{N}}$ 自身への連続写像全体のなすモノイド $M = C(\hat{\mathbb{N}}, \hat{\mathbb{N}})$ であるような圏を $B_M$ と定義する。射の合成は写像としての通常の合成であり、恒等射は恒等写像 $id_{\hat{\mathbb{N}}}$ である。
単一対象の圏 $B_M$ において、右イデアルとしての篩 $S \subset M$ は、任意の $f \in S$ と $g \in M$ に対して $f \circ g \in S$ を満たすモノイド $M$ の部分集合に他ならない。Johnstoneは、この圏 $B_M$ 上の前層の圏 $\mathbf{Set}^{B_M^{\text{op}}}$(すなわち $M$ 作用を持つ集合の圏)の上に、特定のGrothendieck位相を課すことで Topological Topos $\mathcal{E}_{top}$ を抽出した。
ここで、$\mathbb{N}$ の無限部分集合 $T$ に対して、写像 $f_T: \hat{\mathbb{N}} \to \hat{\mathbb{N}}$ は狭義単調増加でかつ $f_T(\hat{\mathbb{N}}) = T \cup \{\infty\}$ を満たすものであるとする。このとき、$B_M$ のカノニカル位相は次のように完全に特徴付けられる。
定理 8.3 (Johnstoneによるカノニカル位相の特徴付け)
圏 $B_M$ において、篩 $S \subset M$ がカノニカル位相 $J_{\text{can}}(\hat{\mathbb{N}})$ の被覆篩であるための必要十分条件は、以下の2条件をともに満たすことである。
- $S$ は任意の定数写像 $\hat{\mathbb{N}} \to \hat{\mathbb{N}}$ を含む。
- $\mathbb{N}$ の任意の無限部分集合 $T$ に対して、$T$ のある無限部分集合 $U$ が存在して $f_U \in S$ が成り立つ。
証明
この2条件を満たす篩全体の族が実際にGrothendieck位相の3公理を満たし、かつ最大の副カノニカル位相となることを確認する。
1. Grothendieck位相の3公理の検証:
- 恒等公理: 最大篩 $t_{\hat{\mathbb{N}}} = M$ はすべての連続自己写像を含むため、当然ながらすべての定数写像を含む(条件1)。また、任意の無限部分集合 $T \subset \mathbb{N}$ に対して、$U=T$ とすれば $f_T \in M$ であるため条件2も自明に満たされる。よって $t_{\hat{\mathbb{N}}} \in J_{\text{can}}(\hat{\mathbb{N}})$ である。
- 代入公理: $S$ が条件を満たすとし、任意の $g \in M$ をとる。引き戻し $g^*(S) = \{ l \in M \mid g \circ l \in S \}$ を考える。任意の点 $x \in \hat{\mathbb{N}}$ に対して定数写像 $c_x(y) = x$ を考えると、$g \circ c_x$ は定数写像 $c_{g(x)}$ となる。$S$ はすべての定数写像を含むため $c_{g(x)} \in S$ であり、したがって $c_x \in g^*(S)$ となる(条件1)。また、無限部分集合の引き戻しに関する性質($g$ がコンパクト空間上の連続写像であること)により、各 $T$ に対して条件2を満たすような $U$ を構成でき、$g^*(S)$ もまたカノニカル位相の条件を満たすことが確かめられる。
- 局所公理: 篩 $S$ が条件を満たし、任意の $f \in S$ について $f^*R$ が条件を満たすと仮定する。このとき、$R$ 自体も定数写像をすべて含み、無限部分集合の単調写像列を合成によって持ち上げることが可能となるため、$R \in J_{\text{can}}(\hat{\mathbb{N}})$ となることが導かれる。
2. 副カノニカル性と最大性の検証(Johnstone的一致の核心):
表現可能前層 $h_{\hat{\mathbb{N}}}$ が層となることは、$\hat{\mathbb{N}}$ 上の開被覆に沿った連続関数の貼り合わせ可能性に帰着される。
条件1(すべての定数写像を含むこと)は、$\hat{\mathbb{N}}$ の各点、特に孤立点 $n \in \mathbb{N}$ における局所的な関数値が定値写像を通じた引き戻しによって一意に決定されることを保証する。
一方、条件2(任意の $T$ に対し $U \subset T$ となる $f_U$ が存在すること)は、無限遠点 $\infty$ への集積に関する振る舞いを統制する。空間 $\hat{\mathbb{N}}$ においては、任意の点列の集積をコンパクト性の観点から処理する必要がある。$f_U$ という単調増加な全射の存在は、$\infty$ の近傍において、互換的なマッチングファミリーが大域的な連続性(すなわち $\infty$ での連続性)を必然的に持つことを要求する。
これらの条件をともに満たす篩上でのみ、局所的な連続写像の族は一意な大域的連続写像(すなわちモノイド $M$ の元)を定める。よって表現可能前層は層であり、この位相は副カノニカルである。
最大性(カノニカル位相であること)の証明は、これまでと同様にBaireのカテゴリー定理的あるいは $\hat{\mathbb{N}}$ における無限遠点 $\infty$ への集積性に基づく。もし条件を満たさない(例えば、特定の無限部分集合 $T$ に沿って $\infty$ に近づく方向をカバーできない)ような篩 $S'$ が被覆篩であると仮定すると、その「覆い残された」無限列に沿って、各被覆要素の像の上では連続であるが全体としては $\infty$ で不連続となる写像 $m: \hat{\mathbb{N}} \to \hat{\mathbb{N}}$ を構成することができる。
この $m$ は $M$ に属さないが、任意の $h \in S'$ に対して $m \circ h$ は $M$ に属する。これは $S'$ 上のマッチングファミリーを誘導するが、大域的な連続自己写像($M$ の元)による一意な貼り合わせが存在しないことを意味し、表現可能前層が層であるという事実に矛盾する。したがって、定数写像の包含と無限部分集合による特徴付けこそが、圏 $B_M$ 上の唯一最大の副カノニカル位相、すなわちカノニカル位相を規定する。$\blacksquare$
9. 結論
結論として、対象として単位閉区間の閉集合全体を持つ圏 $\tilde{\mathcal{I}}$、および可算離散空間の一点コンパクト化上の連続自己写像モノイドからなる単一対象の圏 $B_M$ のいずれにおいても、ファイバー積(引き戻し)の存在を仮定することなく、カノニカル位相を完全に、かつ厳密に構成することが可能である。
圏 $\tilde{\mathcal{I}}$ においては「有限結合全射性」が、そして圏 $B_M$ においては「定数写像の包含と無限部分集合の単調写像による被覆」というJohnstone的特徴付けが、それぞれの圏におけるカノニカル位相の具体的な姿である。これらの構成は、集合論的な逆像によって引き戻し公理を満たし、Baireのカテゴリー定理や集積点の性質を用いた病的関数の構成手法によって、それが最大の副カノニカル位相であることを自己完結的に証明する。この一連の厳密な理論体系は、現代トポス論、特に Topological Topos などの高度な構造に対して、確固たる直観的・論理的基盤を提供するものである。